甘い誓いのくちづけを
信号が変わって、前の車が動き出す。


理人さんもそれに倣(ナラ)うように、アクセルを踏んだ。


その直後に零されたのは、小さなため息。


子どもっぽい嫉妬をするあたしに、呆れてしまったのかもしれない。


だって、自分でも呆れてしまうくらいなのだから…。


不安を感じて俯こうとした時、左側から伸びて来た理人さんの手があたしの頬に触れた。


「今日はね、初めて行ったレストランで食事をするつもりだったんだ。……でも、気が変わった」


「え……?」


「悪いけど、ゆっくり食事をする余裕は持てそうにない。だから、このまま連れて帰るよ」


焦れったそうに眉を寄せた理人さんは、言い終わるよりも早くアクセルをグッと踏み込んだ。


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