甘い誓いのくちづけを
本当は、今日は文博と一緒に夕食を摂れるかもしれないと思って、彼の事を待っていた。


文博の好きな魚料理が美味しいと有名なこのホテルのレストランで、二人で夕食を楽しむつもりだった。


もっとも、彼の方にはそんな気は更々無かったみたいだけど…。


「瑠花ちゃん?」


再び蘇った胸の痛みを唇を噛み締めて誤魔化すと、いつの間にかあたしの顔を覗き込んでいた理人さんが、どこか悲しげに微笑んでいた。


「あ、すみません……」


「とりあえず、奇妙な出会いに乾杯でもしようか。そんな出会い方を演出したのは、俺だけどね」


悪戯な笑みの理人さんが励ましてくれている事がわかって、自然と小さな笑みを零してしまう。


受け取ったカクテルグラスを、彼が軽く掲げたグラスにそっと合わせて乾杯をした。


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