甘い誓いのくちづけを
文博の顔を見るのが、少しずつつらくなっていった。


彼の浮気を見て見ぬ振りをするのが、とても苦しかった。


それでも気付かない振りを続ける為に、文博の前ではいつも上辺を繕ってばかりだった。


そんな自分自身に嫌気が差して、心が荒(スサ)んでいく事に気付いた時…


最初は綺麗に輝いて見えたリングが、鈍色にしか見えなくなっていた。


文博があたしにプロポーズをした本当の理由だって、きっともうすぐ30歳になる彼が両親から結婚を急かされていたから…。


あたしが文博の事を想っているのとは違って、あのリングに彼の想いが伴っていない事にも気付いていた。


お互いの両親への挨拶を先延ばしにしていたのだって仕事のせいなんかじゃない事も、あたしは最初からちゃんとわかっていたのだ…。


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