甘い誓いのくちづけを
「あの時はただ……何だか悲しくて……。“他人だから愛せない”なんて理由が存在する事自体、とても寂しい事だと思ったから……」


“悲しい”や、“寂しい”。


そんな有り触れた言葉しか言えないあたしは、あの頃からちっとも成長していないのかもしれない。


「でも……」


自分の気持ちを言葉にするのが苦手なのは昔からだったけど、あの時はそんな自分自身に歯痒さを感じて堪らなかった。


「あたしは、自分の気持ちを上手く言葉に出来ませんでした……」


「え?」


「正直に言うと、未だにあの質問の本当の答えに辿り着けていないと思います……」


「そんな事ないわ」


俯き掛けたあたしに、理事長がすかさず首を横に振った。


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