甘い誓いのくちづけを
悲しい訳でもつらい訳でも無いのに、胸の奥が熱くなって今すぐにでも涙が溢れてしまいそうだった。


だけど…


眉を寄せながらも笑みを浮かべた文博を見て、何とかそれを堪えようと膝の上で拳をキュッと握る。


「そうか」


彼は悲しげに、そして静かに呟いた。


その直後にフッと漏らされたため息が、あっという間にテーブルに落ちる。


「……もしかして、あいつ?」


「え……?」


「あの日、ラウンジで瑠花に声を掛けて来た男……」


疑問形に近い形で紡がれた言葉だったけど、文博は既に確信を抱いているのか、自嘲気味に笑っていた。


文博はもうわかっているのかもしれないと感じた時、眉を寄せたままの彼がため息混じりに続けた。


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