甘い誓いのくちづけを
「英二は、俺が留学する前から今の仕事に就く事を望んで勉強を始めてたんだけど、俺の方はどうしても貴島の家を出る勇気がなくて……」


“勇気”って言葉は、本来ならもっと前向きに遣われるはずなのに…


今聞いたそれには悲しみが滲み出ていて、切なくて堪らなかった。


「留学中に気持ちの整理を済ませるどころか、貴島の会社を継ぎたいと思う気持ちが強くなってたんだ……。そのうち、自分でもどうすればいいのかわからなくなってて、気付いたら上手く笑えなくなってた……」


ふと脳裏に過ぎったのは、あの夜に与えられた台詞。


『しなくてもいい我慢をして手に入れたものは、きっと簡単に壊れてしまう』


理人さんと出会った日に零された意味深な言葉は、彼自身が経験した事だったのかもしれない。


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