甘い誓いのくちづけを
泣き出したあたしに、ずっと付き合ってくれていた理人さん。


その記憶に辿り着けた直後から、昨夜に背中に感じていた温もりも一緒に蘇って来る気がした。


王子様のような理人さんが与えてくれた優しさに、あたしは縋り付くように甘えてしまったのだ。


「最低だよ……」


初対面で、どこの誰かもわからない人の前で、どうして泣いてしまったのだろう…。


そんな事を考えながらも更に記憶を手繰り寄せると、次に思い出したのは文博との事…。


何となく現実味は無かったけど、左手の薬指に着けていたリングはもちろん無い。


半信半疑のまま手に取ったのは、ベッド脇に置いてあったバッグ。


そこに入れていたキーケースを出して広げれば、長い間着けていた鍵もやっぱり一つ無くなっていた。


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