甘い誓いのくちづけを
理事長の言葉に、どう返せばいいのかわからなかった。


恵ちゃんの事はもちろん、あたしはここで過ごす子ども達の事情をよく知らない。


月に一度のボランティアでここに来ているだけのあたしが訊いてはいけない事だと思っているし、例え事情や経緯を聞いたとしても安易な言葉を返す訳にはいかないと思うから…。


「正式に決まったのは、まだ最近なの」


「……そうですか」


「とても優しいご夫婦でね、恵ちゃんもよく懐いているのよ」


『良かった』なんて簡単に口には出せないけど、恵ちゃんが幸せになれるのなら良かったと思う。


理事長は、恵ちゃんの事についてはそれ以上は何も言わなかったから、あたしも訊かなかった。


それから少しだけ談笑をした後、子ども達の待つ部屋に戻った。


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