触れないキス
足の怪我もだいぶ良くなってきた頃、私は柚希くんのことを柚くんと呼ぶようになって。

まるで私の中に柚くんの“ウィキペディア”が作られているんじゃないかと思うほど、彼のことに詳しくなっていた。


例えば、食べ物はハンバーグが大好物で、その横にくっついてくる甘い人参が嫌い。

辛いものが苦手でカレーは絶対に甘口。

そして、いつも使っているのはグレープ味の歯みがき粉。


入院生活が長いはずなのに、私が知らないような単語とか、難しいニュースなんかも詳しくて。

そんな驚くほど大人っぽい柚くんも、嗜好は子供らしくて可愛くて、聞いた時は思わず笑ってしまった。

でもそのギャップがたまらなくツボで、私はどんどん彼にハマっていたんだ。



そんな柚くんはさすが男の子、意外とイタズラ好きな一面もあったりして。

私が乗る車椅子を柚くんが押しながら、病院の中や庭を探検したりした。

すぐいなくなるから看護師さんにとっては悩みの種だったと思う。

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