触れないキス
その日はあまり時間がなくて、知ることが出来たのは、柚希くんは同い年で、病気でしばらく入院しているのだということくらい。

頭に被った毛糸の帽子から、きっと彼は病気で薬の影響が出ているんだろうと察してはいたのだけど。

でも、最近は体調が回復してきて、もうすぐ退院するのだと言っていた。

たしかに私と話している時の柚希くんはとても元気そうで、あまり病弱そうには見えなかったな。



それからはお互いの病室を行ったり来たりして、時間が容す限りたくさん話をした。

私はもちろん入院なんて初めての経験。

家族や友達がお見舞いに来てくれる時は平気だったけど、一人きりの時はすごく心細かったことを覚えている。


そんな時に出逢った柚希くんが大事な存在になるまで、そんなに時間はかからなかった。

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