触れないキス
誰もいない美術室で作業するのはちょっと寂しい気もするけど、その分集中できるかも。

そんなことを思いながら美術室の扉を開けた。


「──あっ」


思わず声を出して立ち止まる。

誰もいないと思っていた美術室、その窓際の一番後ろの定位置に

──そらくんが、いた。


うそ、また会っちゃった……。

何の心の準備もしていなかった私は、ドキンと強く鳴る胸に苦しさを覚えた。

何でいつもこの人は美術室にいるんだろう。

もしかしてここの番人?


そんなバカなことを思いながら入口に突っ立っていると、何かを描いていたそらくんが顔を上げてこちらを見た。

一瞬驚いたように目を開いたけれど、すぐにまた机へと視線を落とす。


うぅぅ、ものすごく気まずい。

けど、ポスターはやらなきゃいけないし……

とりあえず、私は無言のまま描きかけのポスターを取りに行くことにした。

ポスターは教室の一番後ろのスペースに置いてある。

そろりそろりと、彼に近付くだけでうるさく鳴る胸を必死に抑えていると。

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