君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。
ソーダ味のアイスキャンディー。
あれは、いつの事だったっけ。

夢の中で見た、光るナイフの銀色は、やけに鮮明だった。
ブルーの水溜りに少しずつ溺れていきながら、ハッと目覚めた私は、怖い、と思って目覚めたはずだったのに、一番に思った事は、ソーダ味のアイスキャンディーの事だった。

季節外れの夢。あの夢のあの声は、まるで無音の様に、今は微かにしか思い出せない。

「まさか。」

呟いた自分の声は、自分の声なのに、他人の声の様に、悲しく聴こえた。

まさか、と思ったけれど、事実だった。あの穏やかな優しい声を、思い出す事に時間が必要になっていた。
触れる指の感触を、二人で過ごした過去を、鮮明に思い出す事に苦労していた。

その事実に吐き気がした。

長い夢から醒めたように、彼はどこにもいなくなってしまった。
過去は、もはや虚像だった。

いつか私は、彼を愛した事も、名前すらも忘れて、彼が居ない、この現実を当たり前に生きていくのだろうか。
彼は私じゃなきゃ駄目で、どうしてその事実に、どうして私は泣いたのだろう。

二人が欲した別々の愛の形は、あの夏に置き去りにされたまま、今も転生を待っているはずだったのに。
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