静寂のグレイ
タイトル未編集
卓上ゲームで最もポピュラーな『オセロ』は、白と黒が互いを脅かし合うことが、一番の面白さである。
短絡的にマス目を自分の持ち色に染めれば良いわけではなく、相手の裏を読んでじっくりと攻める必要がある。
でも、マス目を埋めていけばそのうちに覆われる色ははっきりしてしまう。
だから、なぜか寂しくて、私はオセロがあまり好きではないのだ。

なぜなら、物事には、白でも黒でもない、はっきりとしない状態や関係が在るのだということ。はっきりさせようとすると、先が見えてしまう。全てをあからさまにすることで、本当は見たくない物事が、見えてしまうかもしれない。

あなたと私は違う時間を生きてきたし、違う世界を見てきた。でも、それぞれの其れが良いか悪いかということは無い。
それでももし、私の足跡の中にあなたが過ちだと思うものを見つけたとしても、それはそれでいい。私はあなたの思いに対して、否定も肯定も
しない。

なぜなら、どんなに悔いても過去を消すことは出来ないのだ。だから私達は、その過去に未来を重ねて生きていく。ただ、その積み重ねを、ヒトリじゃなく、きっと誰かと分かち合えたら、どんなに幸せだろうと思う。

・・・私は、東京の地下鉄よりももっと複雑な地図を広げて、道に迷っていた。なんとなく行きたい方向は分かっているのに、どうやらそこへ向かう為の『靴』を、履き替えなければならないらしい。

古びた靴屋を見つけて 仕方なくドアを開けると、古めかしい作りとは逆に、店内には漆黒の光沢を放つ真新しい靴が並んでいた。
ただゆっくりとそれらを手に取る私に、店主が言った。『君は曖昧なんだ』と。『だから、どんな靴を履いたらいいか、解らないだろう?』。

私は静かに涙を流した。きっとその通りなんだろうと思ったから。
でも、自分が履いているこの靴を、なぜか捨てる気にはなれなかった。だって、私にとても馴染んでいるからだ。
新しい靴に履き替えたら、きっと慣れないせいで、靴擦れを起こしてしまうだろう。それも言い訳だと思われるなら、それでいい。


























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