深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





今日は土曜で、会社は休み。
だから私が起きるまで待ってた、と言う芦谷さんに申し訳ない気持ちになった。



「起こしてくれてよかったのに」


「起こすのがもったいなかったからよ。さ、飯食ったらどっか行こうな」


(くすぐったい…)


頭を布団の中に隠しながらそんな会話を交わしつつ、その優しい声に私はそんなことを思った。




―――結局瀬里香さんに誘われはしたが断った、と告げられて。
それどころか、私を好きになって以来一度もそういった類の誘いに乗らず、そういう付き合いをしていた人たちの連絡先も消したと言う。


昨晩車を運転しながらそう話し、私だけだ、と言い切った芦谷さんの声がまだ耳にこびりついたまま離れないんだ。





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