愛★ヴォイス
なんだか仕事のメールのような文章だが仕方がない。

実際、合コンの後、相手からの誘いのメールを断ることはあっても、こちらから連絡をすることなど初めてなのだ。

(……!)

思いがけない即レスに、がばっと画面をのぞきこむ。


【メールありがとうございます!真下さん、本気だったんですね(笑)それがお気遣いでも嬉しく思います。大変申し訳ないんですが、平日は連日稽古で時間が取れませんので、今度の土曜日11:00にS駅の中央改札口前で待ち合わせでもいいですか?夜勤明けで、かなり汚い俺だと思いますが……もし嫌になったなら、いつでも縁切って下さって構いませんからね!では!】


「はぁ~……」

思わず深いため息が漏れる。

(なんでメールって音声じゃないんだろ……)

あまりにも当然のことだが、自分にとっては理不尽なことのように思える。

贅沢を百も承知で敢えて言わせてもらうが、せっかく連絡先、つまり“電話番号”とメールアドレスを交換したのに、声を聴くためには“電話”をしてもらうしかないのだ。

そして。

今のご時世、余程のことが無い限り、家族間ですら通話することは稀である。

初めて私はこの人類の文明の利器たるものに恨みの気持ちを抱いた。


(はぁ~……。出来ることなら留守電に「おはよう」とか「おやすみ」とか入れて欲しい……)

彼の公式着ボイスなど、当然まだ配信されていない。


再びため息をついた時、向かいの席の大野が弁当を下げてデスクに戻ってきた。

今年入社してきたばかりの新人なのだが、女子社員が多いこの部署にすんなりなじんだマダムキラーと噂名高い男の子である。
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