鏡【一話完結型】
昔は二人がかりでしか開かなかったその扉を、女は一人で開けた。
それは重く、少しだけ力が必要だったけど、難なく開ける事が出来た。
そんな事にすら、女は顔を歪める。
目には微かに涙を浮かべていた。
乱暴にその涙を腕で拭うと、女は奥に一歩ずつ向かい、その鏡を見付けた。
自分の背丈よりも大きい鏡。
その圧倒感や、圧迫感は当時と変わっていない。
昔より、確かに小さく見える筈なのにその鏡はあの時よりも女を見下ろす様に佇んでいた。
「……」
ゴクリと唾を無理矢理飲み込む。
きっと、そうでもしないと喉の奥が張り付いて、うまく声が出なかったのだろう。
以前は四人で訪れた洋館なのだ。
一人で来るのは、やはり勇気が必要だった。
「……か、鏡の主。いるなら出て来て」
そう、ハッキリと女は鏡に向かって言った。
周りからしたら何て馬鹿げてる話だと思うだろう。
だけど、その女は違う。
一度経験しているのだ。
シンっと静まり返る室内。
はあっと女が息をついたその時だった。
……その鏡に何かが写り込んだ。
写った何かは、女の様な、男の様な、若い様な、年寄りの様な。
ぼんやりとした姿だった。
それが見えた瞬間、女の顔が強張った。
息をする事を止めてしまったかのように、女は押し黙る。