鏡【一話完結型】


『……我を呼んだのは、主か』


決して大きくないのに、室内に反響する様に聞こえるその声。


「そうよ、私を憶えている?」


一つ。鏡の主が首を傾げた様に見えた。


『記憶しているか。そう問われれば、答えはイエスだ』

「そう…。じゃあ、あの時した約束は憶えてるかしら」


そう独白するように言った女の声は、掠れていた。


『はて。どんな約束だったか』


鏡の主がそう答える。


「“俺達はずっと一緒にいてやる、仲良しでずっと”」


そうやって、その女は信人の声真似をしながら真っ直ぐに鏡を見据えて言った。


そう。この女は過去、ここを訪れた子供四人組のうちの一人。
風子だった。


『そうか。それで、再び此処に訪れて我を驚かせようとしたのか』


微かに鏡の主が笑った様な気がした。
それは気の所為だったかもしれないが。


鏡の主の言葉に、風子はぎゅっと拳を作り、唇を噛み締めた。



「……出来なかった」

『ほう』

「仲良く、したかったのに。……出来、なかった」

『宣告した通りではないか』


風子の告白に、鏡の主は驚かない。
以前、伝えていたからだ。


“近くにはいられるが、仲良くならいられない”と。

< 50 / 55 >

この作品をシェア

pagetop