鏡【一話完結型】
『……我を呼んだのは、主か』
決して大きくないのに、室内に反響する様に聞こえるその声。
「そうよ、私を憶えている?」
一つ。鏡の主が首を傾げた様に見えた。
『記憶しているか。そう問われれば、答えはイエスだ』
「そう…。じゃあ、あの時した約束は憶えてるかしら」
そう独白するように言った女の声は、掠れていた。
『はて。どんな約束だったか』
鏡の主がそう答える。
「“俺達はずっと一緒にいてやる、仲良しでずっと”」
そうやって、その女は信人の声真似をしながら真っ直ぐに鏡を見据えて言った。
そう。この女は過去、ここを訪れた子供四人組のうちの一人。
風子だった。
『そうか。それで、再び此処に訪れて我を驚かせようとしたのか』
微かに鏡の主が笑った様な気がした。
それは気の所為だったかもしれないが。
鏡の主の言葉に、風子はぎゅっと拳を作り、唇を噛み締めた。
「……出来なかった」
『ほう』
「仲良く、したかったのに。……出来、なかった」
『宣告した通りではないか』
風子の告白に、鏡の主は驚かない。
以前、伝えていたからだ。
“近くにはいられるが、仲良くならいられない”と。