鏡【一話完結型】
(消えたか)
成仏。人間の世界ではそう言ってるみたいだが。
あの時の子供が、またも訪れるとは思っていなかった。
鏡の主も、全ての未来が見えるわけではない。
大きな出来事が随所に見える感じだ。
その全てを相手に伝えるわけじゃない。
ただ問われた事にのみ答えるだけだが。
風子の姿を見て、初めて鏡の主は感情というモノに興味が沸いた。
そして、感じてみたいと思った。
あんなに泣いていたのに、鏡の主の言葉で笑った風子を一切理解出来ないからだ。
(面白いモノだ。人間は悉く我を飽きさせない)
もう、ここに何十年、いや、何百年いるかわからない。
だけど、人間は常に摩訶不思議で奇想天外だ。
そんな人間がまた訪れるのを、少しだけ待っている鏡の主がいた。
それが、“楽しみ”という感情だという事を鏡の主は気付かずに。
また洋館に誰かが訪れるまで。
さっきまで風子のいた場所を見つめた後、鏡の主はひっそりと鏡の奥へと消えて行った。
Fin.


