鏡【一話完結型】



「……鏡の、主」

『なんだ』


立ち上がると、風子はパンパンと服についた埃をはたく。
それから、真っ直ぐに鏡の主を見据えた。



もう、その顔に涙はない。
薄らと笑みさえ浮かんでいた。



「ありがとう」

『……』

「……でも、やっぱり鏡の主は可哀想」


風子の眉が少しだけ下がる。


「いつか、わかるといいね。感情ってモノを」

『……』

「最後に聞いていい?」

『ああ』

「信人は笑ってる?」


そう尋ねる風子。
その横で、確かに信人は笑っていた。


風子の目には見えないのだろう。
信人に一切視線を向けずに、鏡の主だけを見つめていた。



『……その答えなら、イエスだ』


鏡の主がそう伝えると、風子は満面の笑みを鏡の主に向けた。



「そっか!なら、もう大丈夫」



それだけ残すと、風子は洋館を後にした。
信人が一緒に付いて行く事はなかったけども。


信人は何も言わずに、ただ鏡の主に微笑むとすうっと姿を消した。

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