彼の薬指
店内には、先程と同じようなジャズが流れる

客足は多いとはいえないが、
それが返って落ち着く


「いらっしゃいませ」


バーテンは微笑み、わたしの隣にあるクロゼットを指差した


「雪が降ってたでしょう。
 コートはそちらにおかけになってください」


『ありがとう…』


薄明るい店内は、暖かくて
穏やかな空気が流れていた


小さく並ぶカウンターに腰掛けると
先程のバーテンが話しかけてくる


「初めてお見えになったでしょう?」

『あ、ハイ』

「お飲み物は、何にしましょうか?」


差し出されたメニューを見下ろすと
沢山の種類のお酒が載っている


『あの…わたしあまり種類は知らなくて』

「そうですか、じゃあ、甘いものがいいとかあります?」

『そうだなぁ…少し炭酸の入ったものでお願いします』


するとバーテンは微笑み、


「いいのがあるんですよ」


とカウンターの奥にある、細めのグラスを手に取った
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