三毛猫レクイエム。

 私が朝食の準備をしていると、ヨシが台所に入ってきた。

 みゃ

「おはよう、ヨシ」

 ヨシの喉を撫でると、ヨシは満足げに喉を鳴らした。
 ヨシの魂があきの色をしているという明菜ちゃんの言葉は、衝撃的だった半面、やっぱりかとどこかで納得していた。
 私とヒロが出会う切欠となったヨシ。ヒロが風邪で倒れたとき、私を呼びに来たヨシ。あきと同じ色の瞳を持っているヨシ。
 ヨシに、あきの想いの全てが宿っているような気がした。

「ヨシ、ありがとうね」

 みゃあ

 礼には及ばないとでもいうふうにふてぶてしく鳴くヨシに、私は笑ってしまう。
 ハムエッグとトーストをテーブルに並べていたとき、ヒロが起きだして来た。

「おはよう、真子さん」
「おはよう。昨日はごめんね」
「いや、いいよ」

 私に微笑みかけるヒロの表情も、今までと違って見えた。

「俺、ずっとどこかで遠慮してた。口ではタキが望んでるって言っても、やっぱりタキは真子さんを誰にも渡したくないって思ってるかもしれないって」
「ヒロ……」

 ヒロが、私の頬に触れた。

「でも、タキの日記を見て踏ん切りがついた。俺が、タキの代わりに、真子さんを幸せにする」

 その言葉が、嬉しい。
 あきは、私を他の誰かに託した。
 あの、ヤキモチ焼きのあきが、だ。

 思えばヒロに会わせてくれたのは、あきの想いが切欠だった。私達が親しくなったのも、あきの思い出のおかげだった。

 あきはもしかしたら、こうなることを望んでいたのかもしれない。
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