三毛猫レクイエム。

「あき?」

 その口元が、かすかに動く。だけど、酸素マスクが邪魔で聞き取れない。
 私は入ってきた医者を見た。医者はうんと頷く。それを見て、私はあきの酸素マスクを外した。

「あき?」
「……ま、こ……」
「うん、私だよ、ここにいるよ」

 私が声をかけると、あきが少し微笑んだ。目が、良く見えないようだった。

「真子……に、会えて、よかった……」

 ぜいぜいと異常な呼吸の音にまぎれて、あきの声が確かに聞こえてくる。おばさんと明菜ちゃんが、固唾を呑んでそれを見守っていた。

「……ま……愛してる……今まで、……ありがと……」
「あきっ……」
「……しあ、わ……せ……」

 そこに、連絡を受けたのかおじさんが入ってきた。

「あき、あき?」

 ぱたりと、あきの手から力が抜けた。

「先生っ、昏睡状態です……!」

 私は、看護師達に押しのけられるように、部屋の隅へと追いやられた。

「あき……いやだ……」

 震えが、止まらない。

 ピーッという、甲高い電子音が鳴り響いたとき、慌しい病室の時間が、止まったように感じた。

 医者が小さく首を横に振ったのが、私の視界でことさらゆっくりに見えた。



 あの時、最期の言葉を私に伝えてくれたあきに、わたしは答えられなかった。
 それが、一年も続いていたんだ。

 でも、もうちゃんと言える。

 あきに会えて、良かったと。
 あき、ありがとう、と。


「真子、ちょっと来て欲しいところがあるんだけど」
「うん?」

 帰ろうとしていた私を、ヒロが引き止めた。
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