三毛猫レクイエム。

「携帯貸して」
「はい」

 あきはしかめっ面で携帯をいじって、しばらくすると、

「あっ、本当だ、篠崎だ」
「ほら言ったじゃない」

 目を見張ってそう言ったあきは、にっこり笑った。

「ごめんごめん、真子の言うとおりだった」

 そう言いながら私の頭をなでる。


 彼のベッドのそばには、雑誌や写真、そして手紙がある。最近表の舞台に出てきていない彼に、ファンの人達が送ってくる手紙。
 あきはそれを読んでは、寂しそうな顔をする。

 TAKIの名前で、ロックバンド〝Cat‘s Tail〟のヴォーカリストをしている。つややかな黒髪に、一房だけを銀色に染めているのがトレードマークで、男女問わず人気を博している。それが、あきだ。

 TAKIという名前で有名になっても、皆が彼をTAKIと呼んでも、私にとって彼はずっとあきはあきだった。


「あき、大丈夫だよ。治療も今のところ上手く行ってるでしょ?」

 時折黙ってしまうあきに、私はそう言って笑いかける。するとあきは決まっていつもの笑顔を私に向けてくれた。

「真子、ありがとう」

 トレードマークだった髪も、今では投薬で抜け落ち坊主頭になってしまっている。彼を蝕んでいる病は、白血病だった。

「真子、大好きだよ」

 低い、痺れるような声は、今も昔も変わらない。病に冒されてもなお、髪を失ってもなお、あきはなんら変わらない笑顔を私に向けてくれる。
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