三毛猫レクイエム。
帰り道、一言も発さなかったあきが口を開いたのは、部屋に入ってからだった。
「一人でいたかったのって、翔と喋りたかったから?」
「は?」
あきの言葉に、私は困惑する。
「私、翔がいるなんて知らなかったよ」
「でも楽しそうに話してただろ」
機嫌が悪そうに言うあきに、何故か私は腹が立った。
「当たり前じゃん! 私がファンだったの知ってるでしょ!」
「真子、わかってんの? 真子は俺のもんなんだよ! 自分が可愛いって自覚ある?」
その言葉に、私の中で何かがぷちんと音を立てた。
「ふざけないでよ! 自分だって美人モデルと仲良く話してたでしょ!」
「は? 俺のこと信じるって言っただろ!」
「自分のことは棚に上げといて、ただ話してただけの私のこと責めるってどういう了見なの?!」
それは、私の中の何かが火山のように噴火した瞬間だった。その感情に名前をつけるなら、不安と憤り、というのが一番近かったかもしれない。
「あきだって私のものなのに、なんでどこの誰かも知らないようなモデルにしゃしゃりでてこられなきゃいけないわけ!!」
「誤解だって言っただろ!」
ヒステリックに叫ぶ私に、あきも声を荒げていた。
「そんなの離れてたら不安になる! ずっとずっと不安だったのに……あきが遠くに行っちゃいそうで不安だったのに!!!」
「いつも不安になんかなるなっつってるだろ!」
「なるなって言われて止まるもんじゃない! もういやっ! 出てって!」
「っ……わかったよ!」
あきは、派手に音を立てて部屋を出て行った。
「……もうやだ……」
不安になることに疲れた。有名人であるTAKIと、ただの一般人の私。
一緒にいたくないわけじゃない。だけど、あきはこれからもっと有名になる。いつか私の手の届かないところへ行ってしまう。