三毛猫レクイエム。

「この前、目を閉じたときに思い浮かんだのが……ヒロの笑顔だった」
「…………」

 ヒロがはっと息を呑んだ。私の目から、涙がこぼれる。

「怖かった……ううん、怖いの。あきの笑顔が、ヒロの笑顔に塗り変わっていくのが。私の中から、あきが消えていっちゃう気がして……」

 二度と会えない、私の最愛の人。その笑顔を、守りたくて。

「自分勝手なのはわかってる。でも、あきには、もう会えないの。だから、この笑顔を守るには、ヒロと会わないって方法しかないの……」

 吐き出されるような私の言葉を、ヒロは黙って聞いていた。
 話し終わった私は、ただ黙ってヒロの言葉を待つ。ヒロは、何かを考えるような表情で黙りこくっている。
 私達の間に、沈黙が流れた。



第六章 最愛の人の、言葉



 しばらくして、ヒロが口を開いた。

「今日、真子さんを呼んだのは、あることを伝えるためなんだ」
「……うん」

 涙をぬぐって、ヒロを見た。ヒロは、真剣な顔で私を見つめていた。

「俺は、真子さんに惹かれてる」
「っ……」
「できたら、ずっと一緒にいたいと、思ってるんだ」

 突然のヒロの告白に、私は言葉を失った。



 初めてタキと知り合ったときに交換した連絡先。私達はメールを通じて連絡を取り合っていた。
 始めのうちはメールだけだったやりとりも、徐々に電話をする機会が増えて、そして直接会う機会も増えた。
 その頃には“Cat‘s Tail”も頻繁にライヴを行っていて、私もそれを見に行ったりしていた。

 初めてタキの歌声を聴いたとき、私は冗談抜きで魂を持っていかれたかと思った。
 タキの声だけじゃない。ギターの音色も、ベースの重みも、ドラムのリズムも、全部が相まって、タキの歌声の良さを引き出していると思った。
 凄い、バンドだと思った。そして、彼らに出会えたことを、彼らに会わせてくれた何かに、感謝したいと思った。
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