三毛猫レクイエム。

 自分が死にゆくと知り、それでもあきは自分のことじゃなくて私のことばかり考えていた。
 それだけの愛を注いでくれた、私の最愛の人。
 私は、その愛に感謝して、笑って前を向いていかなくてはいけないのに。
 あきの愛を、拒絶してしまっていた。
 あきが私に望んでいたのは、私が前を向いていくこと。それを意固地に拒んでいた私。それを気づかせてくれたヒロ。

「あきに、会いたい……っ」

 貴方の声で好きだと言って。
 貴方の腕でそっと抱きしめて。
 貴方の心で私を受け止めて。

「あき、苦しいよ……」

 なぜ、こんなにも苦しいのか。
 それは、あきに会えないからじゃない。

 あきのことを愛しているのに、ヒロのことが気になっている私がいるからだった。



第七章 惹かれだす、心



「ねえ、あき、大丈夫?」
「……やっぱだるい」

 ここ一ヶ月ほど、あきは体調を崩していた。始めはただの風邪かと思ったけど、風邪にしては長引いているし、貧血気味になってるみたい。

「ハードスケジュールが続いてたからじゃないかな?しばらく休んだほうがいいんじゃないの?」
「うーん……」

 傍目に見ても顔色の悪いあきは、不満げだった。不機嫌な顔のまま、チョコレートをかじる。私は眉を怒らせて、

「もう、ちゃんと病院にも行かなきゃ駄目。身体が一番なんだからね」
「病院やだ」

 子供みたいに駄々をこねるあきに、私はむっとして、

「そんなこと言ってないで」

 口を尖らせる。

「えー……ただの風邪だって」
「ただの風邪だったら、とっくに治ってるの!」

 また一口チョコレートをかじったあき。と、その鼻から赤い筋が流れ落ちた。

「ちょっ、あきっ、鼻血!」
「えっ?」

 私はあわててティッシュをあきの鼻に当てた。

「ちょっと、チョコレート食べ過ぎたんじゃない?」

 あきは自分で鼻を押さえた。

「前、テレビでチョコレートと鼻血は関係ないとか言ってたぞ」
「実際出てるじゃん」

 しばらくしてあきの鼻血は止まったけれど、その頃の私達は、それがあきの病のサインだったなどとは、想像だにしていなかったんだ。

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