廻音
黒雅さんが望んだもの。
姉が望んだもの。
形は違えど、つまるところ、二人が望んだのは「繰り返される未来」だ。

あの事件以来、黒雅さんは姿を消してしまった。
それでも姉は決して彼を忘れようとはしない。
何年経って、それが輪廻の果てだったとしても
彼女は黒雅さんを必ず掴むのだろう。

二人で過ごした日々の中で、きちんと伝える事の出来なかった「愛している」が今も彼女を縛りつけている。
そしてそうある事を姉は望んでいるのだろう。

目の前で執拗にアップルティーを慈しむ彼女は
何かを期待しているようにジッとカップの底を見つめている。

そのアップルティーは魔法の鏡ではない。
未来など、見えようもないのに。
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