廻音
「…寂しかった。この部屋でなら何時間でも平気だと思ったのに。
『廻音が居た』なんて過去の事実は俺を苦しめるだけだ。何処にも行かないで。」

本当に本当に、寂しく、苦しかったのだと証明する様に腕に力が込もる。

「もしも…遠くに言ってしまったら…?」

「繰り返し、君に恋をするだけだ。」

残酷とも言えそうな問いに、けれどなんて事はない、当たり前の答えだと言いたげに彼は言って退ける。

「俺は廻音の為に在り続ける。この世の全てが敵になったとしても、世界が俺の物じゃなくても、廻音は俺の為に居るんだろ?

そのうちに解るよ。
こんなにも君が、愛しいんだから。」

そっと頬に触れた細い指先が唇、耳、首筋と落ちていく。

胸の膨らみでさえ大切に扱われ、意識が全部、彼の指先に持っていかれるみたいだった。

「來…玖さん…。髪の毛渇かしてない。風邪…」

「平気。どうせまたシャワー浴びなきゃいけなくなる…。」

掠れて物悲しさを帯びた彼の声が何を意味するのか。
キュッとなった心臓の奥はもう気付いていた。
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