金糸雀(カナリア) ー the Mule in a cage -
「侯爵夫人の夜会、手配いたしましょう」

マリアは俯いていた顔をパッと上げた。

「ほんとう?!」

「ですが、すぐにではございません」

「……それは、私がもっと優雅にワルツを踊れるようになってから、とかいうこと?」

彼女の苦手分野はダンスらしい。
恐る恐る尋ねた可愛らしい物言いに、ジャムスは珍しく顔を綻ばせた。

「マリア様が、何のツテもない侯爵夫人の夜会にいきなり行かれたら、それこそ『お金で買った』と言われてしまいます。そうならないように、少しずつ侯爵夫人に近付いて行くのです」

「少しずつ近付く……?」

ジャムスの言葉は、マリアにはいささか難解だった。
首をかしげた彼女に、執事は説明する。

「そうです。
 ある伯爵さまの夜会に行き、そこで知己になった伯爵夫人と一緒にある侯爵さまの夜会に行く。
 そこで仲良くなった侯爵のご令嬢と別の夜会に行き……」

「そうして、最後に侯爵夫人からご招待を受ければ良いわけね!」

頭の回転が早いマリアは、目をキラキラさせてジャムスを見た。

「さようでございます、フロイライン。これならば、お友達もあなたさまに何も言えますまい」

「ええ……ええ!ありがとうジャムス!」

胸の前で両手の指を組み合わせ、目の前のジャムスを神として崇めるように礼を言うマリアには、先ほど鷹揚な返答をした傲慢な影は微塵もなかった。

「あ……でも」

マリアはふと我に返る。

「そんなにたくさん夜会の手配をジャムスにしてもらっていいのかしら」
お前は私の使用人ではないのだし、と肩を落としたマリアに、ジャムスは軽く頭を下げた。

「あなたさまはアトウェル侯爵家のご親戚筋。次期当主エミーユさまのお従妹にあたられます。喜んでお手伝いいたしますよ。それに……」

ジャムスはほんの少し、マリアにわからないくらいの溜息をにじませてこう言った。

「エミーユさまはあの通り、夜会がお好きではいらっしゃいませんし」


< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop