金糸雀(カナリア) ー the Mule in a cage -
「そうだわ!そのエミーユだけれど、体の具合はどうなの?」

本来であれば心配そうに尋ねるべき内容だが、訊いた本人はいくぶん辟易しているようだ。
それもそのはずで、「エミーユ坊ちゃん」の病弱ぶりは今に始まったことではなかったのである。

よくアトウェル家に遊びに来ていたマリアに残っている子供の頃の記憶で、元気に飛び回る従兄の姿はひとかけらもない。どれもこれも、青白い顔に血色が悪い唇をはりつかせ、グッタリと寝台か寝椅子に身を投げ出し、だるそうにしている姿ばかりだ。

昔からアトウェル侯爵家に奉公している使用人によれば、エミーユは、生まれた時は丸々とよく肥えた、それはそれは美しい赤ん坊だったらしい。

だがいつの頃からか、成長につれて病気がちになり、今では「寝返りを打っただけでめまいを起こす」という嘘か本当かわからない噂(実話だとマリアは信じている)まである始末。不健康に服を着せたような青年に変わってしまったのであった。

とはいっても、彼が類まれな美少年、美青年であることに変わりはなく、遠目からたまたまエミーユを見かけた伯爵夫人が、恋煩いで数週間食事が喉を通らなかった、という逸話もあるのだ。
間近で彼の「見事な」病弱ぶりを見ているマリアは、この手の話を聞くと、信じられないとばかりに肩を竦めたものだ。

「最近は、だいぶ落ち着かれて、激しい発作も少なくなりました」

「それにしたって、いくらなんでも弱すぎるでしょ、あれは」

エミーユとマリアは、母同士が姉妹の従兄妹である。

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