エトセトラエトセトラ
彼から目線を外して膝を抱え込む。
ジージーとセミが鳴く。ドアの向こうは晴れ渡る夏空。
私はゆっくりと口を開いた。
「女の子はさあ、」
彼は相槌を打たずに私の言葉を待つ。
「王子様にキスされたら本当の姿に戻っちゃうんだよ」
吹奏楽部の合奏の音が遠くから聴こえる。
「……それ、色々混ざってないか?」
「あれ、そうだっけ」
ミーンミーン。
ミンミンゼミも鳴き出した。夏の音。
数秒の沈黙のあと、彼が静かに口を開く。
「もしかして、キスしないのってそれが理由?」
ちらりと彼の横顔を見てから正面に向き直し、ぼそっと答える。
「……そうだよ」
壁と床が体温によって温められ、段々と居心地が悪くなる。