‐彼と彼女の恋物語‐
それから幾度か抗議の音をあげたもののまるで何もないようにかわされ、結局諦めた。
「(後で絶対話し合いしてやる…!)」
彼女のすこし不機嫌な顔と対して嬉しそうな彼の顔が並ぶ車は駐車場へと入る。
「先に行ってエレベーター開けといてくれる?」
ハンドルを回しながらバックを確認する仕草に高鳴る胸。思わずじっと見つめていれば。
「ん、どうかした?」
流し目気味に向けられた笑みにもつ心臓が跳ねる、跳ねる。これ以上見ていたらだめだと彼女は首を振って目をそらす。
「(可愛いなぁ…)」
「(どきどき、…する)」
くすり、瞳の奥に優しい笑みを浮かべて愛しいものでも見るような彼。車は停まっているから車内は静か。
堪えられないほどただ漏れな彼の雰囲気に彼女はギブアップ。
急ぐようにそこを後にした。
「エレベーター、行ってます」
一瞬だって目を合わせないような頑ななそれは振り返る直前に見えた赤みの差す頬によっていじらしく思える。
「(あーもう、耐えられっかな。夜とか、本気でやばいわ)」
楽しい同居の始まりだ。