‐彼と彼女の恋物語‐
くすくす笑って空気を軽いものにしてくれる彼。手の上を転がされている気もするがさして問題ではない。
だが―――唇に感じた彼の指先の温度がじわじと彼女を侵食していく。
それを拒む術などなく、黙って時が過ぎるのを待つ。彼女の心の中は見た目に反して結構ざわついているのだ。
「ご馳走さまでした」
しっかり手を合わせて頭下げる彼はふー、と短い息を吐くと構ってもらいたくて仕方ない子猫を足許から抱き上げる。
ちょうど食べ終わった彼女は彼と自分の使った食器をキッチンに運ぶ。
「あ、ごめーん。ありがと」
それを視線の先に捉えた雇い主は子猫を撫でながら声をかける。
“ありがと”は彼の口癖みたいなものだ。常に言ってる気がする。