エゴイストよ、赦せ




何度繰り返しただろうか。

僕はコートさえも脱いでいなかったことに気づいた。

エアコンの暖房スイッチを入れ、コートを脱いでハンガーにかける。

ネクタイも外した。

部屋の片隅に立て掛けたままのギターケースに手を延ばす。

ホコリを払ってから、ケースを開け、ギターを取り出した。

ケースを開けるのは二度目、実際にこのギターを手に取るのは初めてだった。


――俺に?


――そう、あなたに渡してくれって。


エピフォン・カジノ――あのひとが残していったギターだ。

つや消しの、ナチュラルカラーの木目が美しい。

今はもう、このタイプのカジノは製造されていない。

ピックアップなどに改造が施されていて、音抜けも抜群に良くなっている。



あのひとが弾いていたギターの中で、僕はこのギターが一番好きだった。

レスポールよりも。


僕がそれを伝えたとき、「俺もカジノの方が好きだよ。レスポールは弾きにくいからな」と冗談のように言い、切れ長の目を緩ませ、嬉しそうにあのひとは笑っていた。


その日のステージで、レスポールを存分に掻き鳴らしていた直後だっただけに、そのセリフは、最高にカッコ良かった。


ギターを抱えて座り込む。

軽く弾いてみる。

ギターを弾くこと自体久しぶりだったから、上手く指が動かなかった。

時間をかけてチューニングを施す。

先ほど聴いた曲のコードをなぞっていく。
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