エゴイストよ、赦せ
メロディを口ずさみ、ギターの弦をはじく。

少しずつ、指の感覚を取り戻し始める。

今まで流れることを忘れていた血が、指先に通っていくような気がして、目頭が熱くなった。




――もっと上手くなったら、譲ってやるよ。


――ギターが愛おしいって、
  そう思えるようにならなきゃダメだな。


――全然、楽しくないんだ……。
  やっと、夢が叶ったのにな。変だろ?


――ごめんな。期待に応えられなくて。




あのひとの言葉が、頭の中で次々と再生されていく。


ローサにもこの曲を聴かせたい、と思った。


不思議だな。

今の、この気持ち。

嬉しいという気持ちを、ローサに聞いて欲しい、と強く思っていることが。

ローサがいなくなってからも、辛いことは何度もあったのに。

そのときは、こんなふうには思わなかったのに。


僕は時間を忘れて、ただその行為に没頭していた。

どれくらいの時間が過ぎただろうか。

部屋には、ギターの音と僕の声だけしか響いていない。

世界から、他のすべての音が消え去ったような気がした。

あまりの静けさにカーテンを開け、窓から外を窺うと、いつの間にか雪が降りしきり、白い情景に染まっていた。
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