エゴイストよ、赦せ
こんなに積もっていたのか――そう思った瞬間、隣の家にある木の枝から雪の塊が滑り落ち、雪と雪がぶつかる重い音が響く。

それは、この世界と僕とを鮮明な音像の道で結びつけた。


あのひとの歌。

僕の指先。

水底のローサ。

遮断された白い世界。

思考の海に溶け込み掬えなかった意識が、浮かび上がって何かを叫んだ。


不意に気づかされた。


そうか、そうだったのか。


――おまえは、いつまでそこにいるんだ?


三鷹の言葉を思い出す。


僕は、まだあの場所に居たんだ。

あの部屋に。

ずっと、あの箱庭の中に。

ローサの影を抱いて、抱かれて。

彼女のやさしさに甘えたまま、彼女を想い、謝り、そして身勝手に誤って。

なんて、なんて情けない……。


僕は衝動的に、ベッドの脇にある収納スペースから、仕舞い込んだままの紙袋を探していた。

中に入っている物は、ローサからの手紙とグレーのハンカチ。


僕は、目的の紙袋を見つけると、その中から一度読んだきりの手紙を取り出した。



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