レミリアの一夜物語
夜、コウとエンは外に出た。
今夜は新月で、いつもより星が明るく、たくさん見えた。
その代わり、暗い夜を照らしてくれた月が消えてしまったせいか、いつもより闇が濃かった。
星の瞬きは水面に広がる波のように広がっていく。
一千夜繰り返した瞬きは、星たちにとって疲れをもたらしたりしないのだろうか、とエンは想った。
その一千夜を見つめる自分もまた、まだこんなふうに生きている。
コウが隣にいるときは小さな安心を、失ったときは喪失を、探しているときは孤独を抱きながら。
「スピカ、ポラリス、カペラ、ミラ、レグルス」
ほら、とほほ笑んでコウはエンの無表情な顔を覗き込んだ。
「覚えた」
「名前だけだろ」
「うん。でもうまくつけたものだよね。どの名前も星の響きにそっくりだ」
嬉しい発見をしたとコウは無邪気に笑った。
「うん」
エンもつられたように微笑んで、再び星を見上げた。
透き通る空にちりばめられた星々。
もしかしたら、あの星それぞれに対応する精霊もいるのかもしれない。
あんなにも美しいのだから、きっといるだろう。この世界でなくとも。
その精霊たちは何を想って生きているのだろうか。
「エン。エンは星の中では何が一番好き?」
コウの笑顔を見ながら、エンはその笑顔をいつまでもそこにとどめておきたいと願った。
エンはコウの肩に寄り掛かって星空を眺める。
その中に見かけのうえでは一つに見える星を探しだし、唇をそっと動かした。
「そうだな……」
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