レミリアの一夜物語
また、一つの光が、この世界での一つの歴史が終わろうとしていることに、まずコウが気づき、そしてエンも気づいた。
「もう、行ってしまうのか」
いつになく弱弱しいエンの様子に、コウはあえて気丈にふるまった。
「またすぐ会えるよ。ボクはもう記憶を手放さない。またどこかで新しい光が生まれる時、ボクはボクを裏切る」
「そんなこと」
エンが途中で止めた言葉の先にはどんな想いがあったのだろう。
できるはずがない。
信じられない。
もしかしたら、して欲しくない……かもしれない。
様々な憶測も、結局エンが言葉にしないかぎり、コウには分かり得ない。
どんなに心を通わせても、どんなにお互いを望んでも、愛しても、二人は悲しいくらいにまったく違う存在だった。
それでも、コウは一番遠いは、一番近いの裏返しだと思っていた。
心が全く違うものでも、自分たちにはお互いしかいないのだから。
そして、コウは隣に在るべく人がエンであれ、と願っていた。
そのために、コウはエンをすべてのものから守ると誓った。
「コウ、あとどれくらいだ?」
「たぶん3日以内。だけど、明日かもしれないし、持ちこたえて5日平気かもしれない」
「3日……」
エンの瞳が揺れた。
それは寂しさとか、悲しみだけではない、明らかな迷いがそこにあった。
コウは、エンが何もできなくなってしまう、と思った。
だから両手でエンの頬を包んで、額を合わせて謡うようにエンに自分の心を語った。
「エン。君が好きだ、愛してる。だから君を守りたいんだ。寂しさからも、孤独からも、君を傷つける何者からも。君が焦がれているアルビレオのようにずっとつながってるって誓う」
「どんなに離れても、繋がってる?引き寄せられてすぐにまた出会えるのか?」
「そのときボクは、エンの名前を呼ぶよ」
一粒。エンの白磁のような頬に涙が流れ、コウの指先に溶けていく。
「アイテル。コウ、お前の本当の名前だ。アイテル、アイテル……ずっとこう呼びたかったんだ。でも、この名前はオレとお前を決定的に引き離してしまう名前だと思って、呼ぶのがずっと怖かった」
エンの呼ぶ自分の名前は体中に染み込んでいくような心地よさと、自分を決める束縛のような響きがあった。
「ボクは、エンの一番近くにいる。必ず。エン……君の名前も、教えてほしい」
エンの形の良い唇が動く。
コウはそれに惹かれるようにじっと見つめた。
「オレの……私の名前は――」
「もう、行ってしまうのか」
いつになく弱弱しいエンの様子に、コウはあえて気丈にふるまった。
「またすぐ会えるよ。ボクはもう記憶を手放さない。またどこかで新しい光が生まれる時、ボクはボクを裏切る」
「そんなこと」
エンが途中で止めた言葉の先にはどんな想いがあったのだろう。
できるはずがない。
信じられない。
もしかしたら、して欲しくない……かもしれない。
様々な憶測も、結局エンが言葉にしないかぎり、コウには分かり得ない。
どんなに心を通わせても、どんなにお互いを望んでも、愛しても、二人は悲しいくらいにまったく違う存在だった。
それでも、コウは一番遠いは、一番近いの裏返しだと思っていた。
心が全く違うものでも、自分たちにはお互いしかいないのだから。
そして、コウは隣に在るべく人がエンであれ、と願っていた。
そのために、コウはエンをすべてのものから守ると誓った。
「コウ、あとどれくらいだ?」
「たぶん3日以内。だけど、明日かもしれないし、持ちこたえて5日平気かもしれない」
「3日……」
エンの瞳が揺れた。
それは寂しさとか、悲しみだけではない、明らかな迷いがそこにあった。
コウは、エンが何もできなくなってしまう、と思った。
だから両手でエンの頬を包んで、額を合わせて謡うようにエンに自分の心を語った。
「エン。君が好きだ、愛してる。だから君を守りたいんだ。寂しさからも、孤独からも、君を傷つける何者からも。君が焦がれているアルビレオのようにずっとつながってるって誓う」
「どんなに離れても、繋がってる?引き寄せられてすぐにまた出会えるのか?」
「そのときボクは、エンの名前を呼ぶよ」
一粒。エンの白磁のような頬に涙が流れ、コウの指先に溶けていく。
「アイテル。コウ、お前の本当の名前だ。アイテル、アイテル……ずっとこう呼びたかったんだ。でも、この名前はオレとお前を決定的に引き離してしまう名前だと思って、呼ぶのがずっと怖かった」
エンの呼ぶ自分の名前は体中に染み込んでいくような心地よさと、自分を決める束縛のような響きがあった。
「ボクは、エンの一番近くにいる。必ず。エン……君の名前も、教えてほしい」
エンの形の良い唇が動く。
コウはそれに惹かれるようにじっと見つめた。
「オレの……私の名前は――」