レミリアの一夜物語
その魔道種の女性に連れられてエンは小さな家でオシリスと向い合せに座っていた。
魔道種の子なのに人間であることと言い、エンの闇を内包させ平然としているところや、コウと変わらぬ光を抱きながら微笑むところなど、恐ろしさを感じさせるほど不思議な子供だった。
カラ、と氷のぶつかる音を響かせたお茶を持って魔道種の女性、ネイトが部屋に入ってきた。
エンは何も言わず、ただ差し出されたコップをじっと見つめた。
ネイトはそれを気にかけず、美味しそうにお茶を飲み干すオシリスを愛おしげに見つめていた。
「この子は……魔道種と人間の子供なの。聞いた話では古代種であるところのエルフの血筋もあるみたい。だから不思議な子で、私達もこの子のことはよくわからないの」
ネイトはエンが尋ねる前に、しかしおそらく一番聞きたいことであろうことをくみ取って説明した。
そしてエンをまっすぐに見つめて、確認をするように尋ねた。
「貴女は、闇と共にある精霊なのよね?」
「……ああ」
「ふふ。やっぱり。ねぇオシリス、お父さんたちを呼んできて。どこにいるか、わかるよね?」
「うんっ」
オシリスは無邪気に笑顔でうなずくと、飛ぶように家から出ていってしまった。
ネイトは再度エンに向き直ると、続きを話した。
「あの子は、最初の光なのだと。それにこれは貴女と会って初めて浮かんだ私の予想だけど、全てを受け入れ、繋いでいくかなめのような子なのかもね……」
ネイトは少しさびしそうに、しかし誇らしげにそう言って窓の外を見つめた。
そして沈黙の時間がしばらく続き、おもむろにネイトが立ち上がった。
「来て、たまには迎えてみたいと貴女だって思うでしょう?」
「あ……」
エンはネイトに手を引かれるまま、扉の前まで足をもつれさせながらついて行った。
扉が開く。
ネイトの嬉しそうな、幸せそうな笑顔が背の高い男に注がれる。
その後ろには、金とも白ともつかない髪の青年がいた。
彼は驚きに目を見開いて、そして次にその顔はエンから見えなくなった。
そのかわりに暖かな柔らかさが躯を包み込んで、エンは安心をまず感じた。
「エレボス。ただいま」
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