魔王更生物語 -させてみせます、その男!-
「…おい」


今日ここで初めてあわせてくれた瞳は………私でもわかる、かすかな怒気を含んでいた。少し戸惑って一歩後退する。同時に神城が距離を同じく詰めてきた。


「な、によ…」


「……何も知らねぇくせに、軽い気持ちで首突っ込んでんじゃねぇよ。胸糞悪ぃ」


「そんなんじゃない」


「そんなんなんだよ。お前、自分の正義だけ振りかざして…俺たちの立場で物事考えたことあるか?」


「それはっ…」


「ないだろ。どうせ、あるわけがない」


そのとおりだ。何も言えずに唇を噛み締める。その様子を見て、神城がハッと鼻で笑った。


「だろうな。いつでも人間サマは御自分の都合だけ考えて、利益、有益、私利、私欲!おめぇらが見てる正義ってモンが、必ずしも正義であるわけねーだろ」


たたみかけるように神城が言葉を放つ。一言一言がグサリと心に刺さって、目頭が熱くなった。泣かないように、さらに強く唇を噛んだ。


少し、鉄の味がした。


「協力する気がねぇなら、協力者なんて止めちまえ。逆に迷惑だ。中途半端な覚悟で、俺に関わるな」


一際冷たい声色で吐き捨てると、神城は屋上を出ていった。バタン、と閉められた扉が私を拒んでいるようで、追いかけることすらできず、立ち尽くす。


「ああっ、置いていかないでください!……時雨さん、お先に失礼します」


「…えと、時雨?あんま気にしなくていいからね。ちょっとイラついてたんだと思う」


「ユイちゃん…」


「でも。時雨。その……私も、あの方の言うこと、わかる気がするよ。これはいくら親友でも……時雨のためを思って言うけど、中途半端な気持ちでちょっかい出すのは、やめてほしい」


「……ユイちゃん」


「…ごめんっ、行くね」


二人が出ていってからも、私はなんとなくそこを動けなかった。


私は間違ったことを言ってるの?


間違ったことを、しているの?


何度自問自答しても答えなんて出てこない。私は、私の考えで動いて、正しい正義感で行動している。このままじゃ神城は悪者扱いだ。それが可哀想だから、こうして矯正しようとしているんだ……よね?


「…っ、私は、正しい」


これは、私の正義感だけを、私の意見だけを押し付けてることになるのだろうか。どうか、違うと答えてほしい。間違ったことはしていない、間違ってるのは神城の方だ。


だって、彼は魔王だもの。隙あらば聖者である七海さんを殺そうとしている。それは道徳的にいけないことだ。


「行こう…時間だ」


ふらふらと扉へ向かい、あとはどうやって教室に戻ったかは覚えていない。午後の授業中、ちらりと神城の席を見てみたがそこにヤツの姿は無く、結局最後まで神城が授業に来ることはなかった。


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