花散らしの雨
俺の前に堂々と降り立ったこの女の子は、俺に萎縮する事もなくどこか勝ち気な表情を浮かべている。

大きくなったら確実に超絶美人になるんだろうな。
春用のふわっとしたワンピースがよく似合う。

「あー…ここは勝手に入ってきちゃいけないとこ。分かる?それとも誰かの付き添い?」

ここは俺の方が歳的に大人だ。
その子の前にしゃがみ込み目線を合わせてやる。

見れば見るほどくりくりと可愛らしい。
瞳は茶色だし…髪も俺と違って天然の色なんだろーな…
ハーフかなんかか?

「もう、さっき言ったでしょ。あたしは桜の妖精。美輪よ」

「…あぁ、アキヒロ?」

「…?! 違う!!美輪違い!!もう!」

また怒りだした。

ちょっと面白いかも…

「面白いとか思ってない?桂」

あ、バレバレ。

「つか、なんであんたが桂って呼んでんの」

「さっき友達っぽい人に呼ばれてたじゃない」

あー…


この自称桜の妖精は『美輪』というらしい。

…この自称、訂正する気がさらさらないのが態度に思いっきり現れている。


変なガキ…



「絵を描いてるの?」

「え?あぁ…」


美輪は芝生に開かれている俺のスケッチブックを見つけていた。



「ここの桜…描いてるのね」


美輪はスケッチブックにゆっくりと近づきそれを拾い上げる。


俺はちょっと苦笑した。

「よく、分かったな」

ライオンって言われたのに。



「さっき友達に主張してたじゃない」
「おまえいつから居たんだ」

両手を腰に当てて胸を反る美輪に、思わず項垂れる。

その俺の頭の上から、「桜の妖精なんだからずーっと上に居たわよ!」
なんてセリフが降ってきた。


いやいや。

流石にこのご時世妖精なんてものを信じるなんて…ないない。


「美輪…妖精ごっこは学校の外でやれよ、この時期桜なんてどこ行ったって咲いてるだろ」

呆れた感じで俺がそういうと、美輪は意外と食い下がった。

「ここじゃなきゃダメなの」


「……」


や、なんで?


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