泡沫眼角-ウタカタメカド-
正直なところ、川井は暴力団に関わったことはないのだが、そちらに関わっている課から聞けばいい話はない。
そんな怖い人間のところになんて、誰が好き好んでいくものか。
なのに、なのに……
「警部ぅ…」
「何泣きそうな声を出してるんだ。シャキッとしろ、舐められるぞ」
「行かないんだったら舐められてもいいです!」
「行かないと捜査が進まないだろうが」
川井が狸翠にしがみつくが、彼はそのまま進んで扉の前に立つと、川井をじろりと睨んだ。
「ほら、どうする川井」
川井はしぶしぶ狸翠を放す。
「嫌です!」
「ふざけんな!」
――ガツン!
シャキッと立って言ったら殴られた。
全く最近の若者は…と沈む川井を横目に、狸翠は扉を開けた。
「いらっしゃい」
とても“いらっしゃい”とは思っていなさそうな、柄の悪い声が迎える。
「どうも」
狸翠が踏み込むと、男は大きく眉を上げ、身構えた。
「何の御用で?」
狸翠は堂々と中に入りながら胸ポケットに手を突っ込み、
「ちょっとした野暮用だ。君らの店長と話がしたいんだがよろしいか?」
言葉と共に警察手帳を掲げた。