泡沫眼角-ウタカタメカド-
高橋はすぐさまメモを前にパラパラとめくった。

「ここ数日の留守については、自動車免許取得の合宿に行くと家族には伝えてありました。確認したところ、申し込みまではしてありますが、直前にキャンセルされています」

「…妙だな」

狸翠が呟くが、高橋はそのまま続ける。


「他に郊外の交番で道を尋ねに来て、そこの巡査に追い掛けられ、逃走」

「「はぁ?」」


三人は同時に声を上げる。
高橋も正直、手配されているのに交番を訪れるという行為に疑問を覚えずにいられないが今は先を続ける。


「それがなんと、香田の自宅付近だったんですよ。香田本人も目撃されています。
後に巡査が行ってみると、車がなくなっていたそうです。

これが、今わかるところの日奈山くんの動向です」

「あっきれた…バカだとは思っていたけど」

「計画性があるのかないのかはっきりして欲しいッスね…」


憐れなり。
狸翠に次ぐ喧嘩ばかりの川井と朋恵が意見が合うほどの呆れっぷり。

高橋は、内心で小さく炯斗に同情した。


「とりあえず、」


考えこみそうになる思考を朋恵が断ち切る。


「日奈山に関しては私たちが調べるから、あなたたちは今日の事件から辿って」

「何をお前は突然仕切るんだ」


不信感たっぷりに川井が見つめると、朋恵は不敵にニヤリと笑う。


「その件は、二人を信用してお任せします、と言ってるのよ」

「だからなんでお前に言われな――」

「よし、行くぞ川井!!」

狸翠は突然、ガタリと立ち上がって川井の手を取った。
その目は情熱にメラメラと燃え上がっている。

突然張り切り出したオヤジについていけない川井は、呆然と狸を見る。
朋恵は狸翠に手を合わせ猫なで声で、

「じゃあ、お願い」

「おう! 任せろ! さあ立てよ川井」

「え、ちょっ、警部!? 何なんですかぁ!!」



そのまま川井は引きずられていき、朋恵は二人がいなくなった後に彼らの背中にあっかんべーとしたという。
高橋談。


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