泡沫眼角-ウタカタメカド-
痕跡
* * *
「ことのん! こっちだよ」
声を上げると、人混みの中の言乃は恵に駆け寄ってきた。
【お待たせしました】
「そんなことないよ。じゃあ行こうか」
【はい】
集まった場所は炯斗の最寄り駅。
そこから程なくしたところにある図書館が今回の目的だ。
『炯斗のことは警察の人たちの方が早く見つけられると思うんだ。だから私たちは、警察もわかってないファントムについて調べたらどうかなって』
そう提案したのは恵だ。
確かに追跡に関して全く手段がない言乃たちに炯斗を独自に探すというのは無茶に近い。
まずは、奏の屋敷でポロリと聞いた禅在組との抗争について調べることにした。
となれば、その地域の新聞の地方記事に載っているかもしれない。
新聞が残っているのは、図書館だ。
ドサドサと広いテーブルに重いファイルが8つ。
恵はそのひとつひとつの大きさに目を瞬きした。
「嘘…」
【残念ながら現実です。一年分の新聞をひとつにまとめるとこういうことになるんですね】
「感心してる場合じゃないよことのん」
厚さは10センチメートル。いや、もっとあるだろうか。
【恐れることはありません。地方記事の場所を見ればいいだけですから】
「ううん…」
集中力が持つ気がしない…
言い出しっぺとはいえ、恵には前途多難だった。