永遠の愛
「私ね、ずっと言ってたでしょ?」
手に持っていた名刺を置いた葵は再び口を開く。
「…何?」
「美咲が羨ましいって」
「あー…うん」
そう言えばよく言ってたな。
親が離婚して不自由してんのに葵はいつも羨ましいって言ってた。
葵のほうこそ裕福な家庭で育ってんのに、何が羨ましいんだって、ずっとそう思ってた。
「そらさ、一般的にみると私の方が幸せだって思うかも知れない。けどね、私の親はずっと居なかったから。仕事ばっかでさ、小さい時は遊んでもらった記憶とかなくてさ、一人で…もしくはお手伝いさんとばかりで居た」
「……」
「中学も高校の時もずっとそうで。でも離婚してるって言ってた美咲のほうがずっと幸せだと思ってた」
「……」
「だって、お母さんと会話ってもんがあるから。私は話した記憶とかなくてさ。今は香恋が居るから話すけど、居なかったらきっと今も話してない」
「……」
「そんなのって家族って言えるのかな?パパは話すどころか家にずっといなかったからさ、私には愛情ってもんが分んないの」
「……」
「だから香恋にはそうさせたくない。…だからね、こーやって美咲を訪ねて来たお父さんが凄いなって思った。結局は家族ってそう言うもんじゃん。忘れちゃダメなんだよ…」
「……」
「美咲のママ、すっごく優しかったね。きっと美咲は沢山の愛情を知ってると思う。私よりかは凄い凄い知ってるよ?だから羨ましかった。私が言うのもなんだけど、芹沢さんも待ってるよ?5年も美咲の事待ってたんだから戻んなよ」
子供の頃からいつもそうだった。
何で私だけなの?
ねぇ、何で?
いつも毎回そう思ってた。
何で私だけ苦しむのかって、そう思ってた。
けど、そう思ったのは私だけじゃないんだって、初めて聞いた葵の本音にちょっとだけ葵に対する切なさを覚えてしまった。
遅いね、私。
あの頃に分り合えてたら良かったと思う自分が心に存在した。