嘘つきヴァンパイア様
それは、そうだろう。長い信号の待ち時間を過ぎたのに通行人のせいで延長して待たなくてはいけないのだから。
「ど、どうも、すみません」
肩身のせまい思いをしながら、楓が腕を引き横断歩道を渡りきる寸前の事だった。
「あ…」
目に写る男性がにこりと微笑み、唇に人差し指を当てた瞬間、その悲鳴は突然大きく響いた。
「きゃっ!あぶない!!?」
「…え?」
プーと言う大きなクラクションの音が響き眩しいライトが2人を照らしたと思うと、涼子と楓は激しい痛みとともに一瞬にして意識を失った。
ピーポー、ピーポーとなるサイレンに続き、人々が騒つく雑音。今だに悲鳴をあげるものや、その光景に顔を背けるものが沢山そこにはいた。
そして、涼子を見下ろすブラウンの瞳の男は楽しそうに微笑み背中を向ける。
「悪いな、これも目的のためなんだ」
(もく…て、き?)
薄れゆく意識の中、その言葉だけはハッキリと分かり同時に彼はいつのまにか消えていった。
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