嘘つきヴァンパイア様
すると手から離れた花瓶は重力に逆らえず、いい音を響かせながら床に叩きつけられた。
水が絨毯に染み渡り、綺麗に飾った花束が、無残な姿になる。
(わたしってば、何をしているんだろう。手を離すだなんて)
慌ててしゃがみこみ、割れた鋭利な破片を手で触れると、痛みが走った。指から血が滲み、真っ赤な液体が指を伝う。
赤く、真っ赤な血を見ると、また頭の中で残像が浮かび上がる。
『お前は、また怪我をしたのか?心配ばかりかけるな』
『えぇ、ごめんなさい。転んでしまって。でも、手にかすり傷が出来ただけだから、大丈夫よ。心配しないで』
『大丈夫じゃない。ほら、手を見せて』
彼女の手をとり、その傷をみる。頬を赤らめる彼女とは違い真剣な顔の男。
(また……わたしの、記憶なの?)
『痛むか?』
『痛くないわ。ケイトが心配してくれたんだもん。痛みなんて何処かに行っちゃった』
そんなわけがないだろう。と、男は彼女を抱きしめる。
(ケイ……ト?え、どういうこと?)
残像の中の涼子が口にしたのはケイトの名だった。どうして、ケイトの名前を口にしたのだろう。
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