嘘つきヴァンパイア様


「本来、蝙蝠は血を吸う獰猛な生き物ってイメージが強いがそんなことはない。血なんて、なくてもいいのさ。だが、吸い尽くすことも出来る。愛している男に殺されるなんて、最高の幸せ……だろ?」



口から生える生々しい牙が肌に触れた。

涼子にとって初めての感覚だ。けれども、同時に呉羽が触れている場所がだんだんと熱を帯びる。

(幸せ?噛み殺されるのが?そんなの、幸せなんかじゃない)

「い…いや…は、離して」


呉羽の腕を振り払い、舐められた場所を押さえ呉羽から離れる。そんな涼子の行動を呉羽は鼻で笑いながら腕を組む。


「そんなに拒否らなくてもいいだろ。冗談さ。利用するためにお前を愛でたんだ。殺すなんてことするか。まぁ、用が済んだら、そうするかもしれないけどな」


呉羽の言葉など、涼子は聴きたくなかった。

けれど、涼子は呉羽の言葉をきき、現実を受け止めていた。


心のどこかで、あった不安。幾度となく、呉羽の言葉によって誤魔化されてきたが、心の片隅には知らずうちに不安はあったのだ。


だから、全てが「嘘」だと分かって、涼子は思った。「やっぱり、か」と。


(呉羽は、もう……私の知っている呉羽じゃないんだ。私に殺意をむけ、殺すなどと口にする。呉羽であって、呉羽じゃない。だって、呉羽……私の名前……呼んでくれないから……)


黙りこみ、呉羽と距離を取ったまま俯く涼子に呉羽は首をかしげる。

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