黒水晶

ヴォルグレイトは、剣を頭上に翳(かざ)した。

「黒水晶よ、今こそ我の元に現れよ……!

時を超えて、この地に恵を授けたまえ!」

黒に近い紫色の空気がヴォルグレイトの剣から放たれ、彼の周りを渦巻くように広がっていく。

魔法使いの骨に禁断剣術の力をプラスした妖術が、発動されたのだ。


「父さん! いったい何を……!?」

初めて見るまがまがしい術を前に、イサは叫ぶ。

マイやリンネ、テグレンですら、全身をのみこむような憎悪を前に恐怖し、その場に座り込んでしまった。


ヴォルグレイトの考えはこうだった。

今、エーテルの両親が禁断魔術によって神達の能力を封印している。

その上、魔法使いのマイがここにいる。

駒はそろった。

いま、妖術を使えば、黒水晶を呼び出すことができるはず!

彼は、そう計算して動いていた。

妖術の強い力とマイの血に反応して、黒水晶が引き寄せられると想定してのこと。

黒水晶の封印方法が分からない現状、うまくいく確証はなかったが、エーテルに気付かれてしまった以上、もう後には退(ひ)けない。


願望を叶えぬままエーテルに処刑されるつもりなど、毛頭ない。


ヴォルグレイトは、たった一つの願いを自分の命に込めるつもりで、天井を見つめた。

「頼む……!

黒水晶よ……。

我の宿志を遂(と)げさせてくれ……!」

「させない!」

エーテルはすかさず、ヴォルグレイトに向けて上級魔術を放った。

紫色の氷のかたまりを、光の速さで彼の方向に打ち込む。

しかし、それは一発も命中しなかった。

ヴォルグレイトを取り巻くように深くなる妖術の闇が、エーテルの攻撃をことごとく遮ってしまうのである。

< 240 / 397 >

この作品をシェア

pagetop