黒水晶
マイは黒水晶の正体を知らないし、レイナスという人物にも心当たりがない。
だが、自分がここに存在していることが、現状に至った全ての原因なのだと感じていた。
“ディレットは『黒水晶』を出現させるため、私に怒りの感情を抱かせようとしている……”
――封印されし記憶。
『決して怒ってはなりませんよ。
あなたが怒ったら、その時は……』
聖母のような優しい声。
マイの記憶の中にハッキリと響く。
あの丘で一人暮らしをしていた時も、
イサ達と旅に出てガーデット城に来てからも、
眠りの中で欠かさず耳に響いてきた声……。
日常の中で感じるささいな不満からくる怒りではなく、人一人の人生を狂わせてしまうような大きな怒り。
マイは今まで、そんな感情を抱いたことはない。
また、ディレットが現れた今、深い怒りを抱いてはいけないのだ、と、マイは察した。